インサイドセールスとフィールドセールスのKPI設計|「分断」を防ぎ連携を生む共通KPIの作り方

「インサイドセールス(IS)とフィールドセールス(FS)のKPIが噛み合わない」「数を追う文化と、質を重視する文化がぶつかる」「商談数は増えているのに、売上が伸びない」——THE MODEL型の分業を導入した営業組織の多くが、この課題を抱えています。結論から言えば、原因は分業そのものではなく、IS と FS のKPI設計が断絶していることにあります。ISが「商談をつくること」、FSが「受注を取ること」を別々のゴールに置くと、KPIが異なる方向を指し、本来チームをつなぐべき指標が「チームを分ける壁」になります。この記事では、共通KPI「SQL→受注率」でISとFSをつなぐKPI再設計の方法を解説します。
なお、インサイドセールス単体のKPI設計(量・質・貢献の3層ピラミッド)はインサイドセールスのKPI設定完全ガイドで、インサイドセールスの全体像はインサイドセールスとは?役割・KPI・立ち上げ手順で解説しています。本記事は、その先の「ISとFSをどうつなぐか」に焦点を当てます。
はじめに:分業のはずが、チームが分断されていく
THE MODEL型の営業体制は、BtoB営業における再現性の象徴です。マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスが商談を創出し、フィールドセールスが受注を担う——いわゆる「分業による効率化」を実現する仕組みです。ザ・モデルの仕組みそのものはザ・モデルとは?4分業の仕組みと「情報分断」という落とし穴で詳しく解説しています。
しかし、実際にこの体制を運用している営業組織の多くが、冒頭のような課題を抱えています。原因は、分業そのものではなく、KPI設計の断絶にあります。分業は正しく機能すれば強力ですが、KPIが部署ごとに分かれていると、各部署が自分の数字だけを最適化し、結果として全体が沈むのです。
なぜISとFSのKPIはズレるのか?
THE MODEL型の分業に潜むKPIの罠
多くの組織では、次のようなKPIが設定されています。
役割 | 一般的なKPI | フォーカス |
|---|---|---|
インサイドセールス | 架電数・商談設定数 | 数(活動量) |
フィールドセールス | 受注率・売上 | 質(成果) |
一見合理的に見えますが、これが"分断"の起点になります。ISは「商談をつくること」をゴールとし、FSは「受注を取ること」をゴールとする。つまり、KPIが異なる方向を指しているのです。その結果、ISは「数を稼ぐこと」が目的化し、FSは「質の低いリードが多い」と不満を持つ。KPIは本来、チームをつなぐ"共通言語"であるべきなのに、気づけばチームを"分ける壁"になってしまいます。
この構造が厄介なのは、双方が自分のKPIを達成していても起きる点です。ISは商談設定数の目標を達成し、FSは与えられた案件の中で受注率を守っている。それぞれは「仕事をしている」のに、全体では売上が伸びない。誰も怠けていないのに成果が出ないため、原因が個人の努力不足ではなく設計にあることに気づきにくいのです。だからこそ、KPIの分断は放置されがちで、代わりに「ISの質が低い」「FSの追客が甘い」という不毛な責任のなすり合いが続きます。
分断は「情報の受け渡し」でも起きている
このKPIの分断は、買い手にとっての体験の分断にも直結します。コレタの独自調査(Vol.1)では、63.3%の買い手が初回商談で「すでに知っている内容が多い」と感じたと回答しました。これは、ISが得た情報がFSに引き継がれず、FSが一から同じ説明を繰り返している状態を示唆します。ISとFSがそれぞれのKPIだけを見ていると、買い手は「同じ会社なのに毎回説明し直させられる」という分断を体験するのです。マーケと営業の連携も含めた部門間の断絶についてはマーケティングと営業の連携が進まない理由でも扱っています。
「良い商談とは何か?」から始めるKPI再設計
ある企業では、全営業メンバーがホワイトボードを囲み、「良い商談とは何か?」を徹底的に議論しました。最初は意見がバラバラでしたが、最終的に辿り着いたのはこの視点でした。
「顧客が自社の課題を正確に理解し、その解決に向けて共に考えられる状態が、良い商談である」
つまり、"商談の質"とは「顧客理解の深さ」なのです。この定義を中心に置くことで、ISとFSの"評価軸"が自然と揃っていきます。ISは「顧客理解の深い商談をつくれたか」、FSは「その理解を引き継いで受注につなげられたか」——同じ顧客理解という軸で評価できるようになります。
共通KPI「SQL→受注率」でチームをつなぐ
この考え方をKPIに落とし込むと、次のように変わります。
役割 | 旧KPI | 新KPI |
|---|---|---|
IS | 商談数(アポ数) | 商談化率+共通KPI(SQL→受注率) |
FS | 受注率・売上 | フェーズ移行率+共通KPI(SQL→受注率) |
ポイントは、ISとFSの両方に「SQL(質の高い商談)→受注率」という共通KPIを持たせることです。ISは自分が創出した商談が最終的に受注したかまで責任を持ち、FSは受け取った商談を前進させたかを見る。これにより、「バトンの受け渡し」ではなく、「リレーの完走」として成果を捉えられるようになります。この意識転換により、部門間の分断は自然と消えていきます。
データドリブンでKPIを進化させる
顧客行動データの可視化が商談を変える
"商談の質"を定義したら、次は顧客データをKPIに組み込むフェーズです。顧客理解の深さは、担当者の主観では測れません。買い手の行動データで裏づける必要があります。
たとえば、コレタのデジタルセールスルーム(DSR)では以下が可視化できます。
顧客がどの資料を、何回閲覧したか
動画のどの部分で離脱したか
どのページを再訪問したか
これらの行動データをISとFSが共有することで、商談における"顧客の温度感"を共通認識にできます。「この顧客、動画を最後まで見てくれています」「3回閲覧している資料があるので、そこを深掘りしよう」——数字の報告から、顧客理解の共有へ。データが"対立軸"ではなく"共通言語"になる瞬間です。DSRの全体像はデジタルセールスルーム(DSR)とは、データに基づく営業への転換はデータドリブン営業とはで解説しています。
この顧客理解の共有は、Vol.1の課題への直接的な解決策でもあります。ISがDSRで得た「顧客がどの資料に反応したか」をFSに引き継げれば、FSは初回商談で「すでに知っている内容」を繰り返さずに済み、63.3%の壁を越えられます。
このような「ISとFSが同じ顧客データを見て連携したい」という課題に向いているのが、AI搭載のデジタルセールスルーム『コレタ for Sales』です。閲覧ログや購買サインを可視化し、部門をまたいで同じ顧客理解を共有できます。→ コレタ for Sales の詳細はこちら
KPI再設計の3ステップ
ステップ | 具体的アクション | ゴール |
|---|---|---|
① 定義する | 「良い商談とは何か?」をチームで議論 | 評価軸の統一 |
② 共通化する | IS・FSで共通KPIを設計(例:SQL→受注率) | ゴールの共有 |
③ 可視化する | 顧客行動データを活用し、商談の質を測定 | 改善の自走化 |
このプロセスを踏むと、KPIが単なる管理指標から、チーム文化を形づくる"哲学"へと進化します。
IS→FSの引き継ぎで「何を渡すか」を設計する
共通KPIを設定しても、実際の案件で「何を引き継ぐか」が曖昧だと連携は機能しません。ここは特に、買い手の社内で進む「見えない検討」を踏まえて設計する必要があります。コレタのBtoB意思決定の実態調査2026では、購買の意思決定に4名以上が関与するケースが64%、一方で意思決定者全員と営業が直接話せた案件はわずか11.5%でした。つまり、ISが接点を持てるのは意思決定者の一部にすぎません。
だからこそ、IS→FSの引き継ぎでは「アポが取れた」という事実だけでなく、次の情報をセットで渡すべきです。第一に、誰が意思決定に関わるのか(把握できている範囲の関係者マップ)。第二に、買い手がどの資料・コンテンツに反応したかという関心の在り処。第三に、まだ接点を持てていない決裁者は誰かという空白の情報です。
これらを引き継げれば、FSは初回商談から「決裁者に届いていない前提」でアプローチを設計でき、ISが築いた顧客理解を無駄にせずに済みます。逆にこの引き継ぎが「アポ情報」だけだと、FSは一から関係を作り直すことになり、ISの努力が消えます。共通KPIは、この「何を引き継ぐか」の設計とセットで初めて機能します。
KPIが変わると、チームの文化が変わる
KPI再設計から数ヶ月後、多くの組織で数字より先に変わるのは「空気」です。
ISが自然にFSへ進捗を確認する
FSがISに「このリード決まりました」と報告する
チャットの会話が「責任」ではなく「改善」に変わる
以前は"自分のKPIを守る"ための議論が多かったのが、"顧客を理解するための議論"に変わります。KPIは数字ではなく、チームが何を大切にするかの表明だからです。
顧客体験を軸にKPIを設計する時代へ
部署別にKPIを分けると、顧客体験を分断するリスクがあります。これからのKPIは、チーム単位ではなく顧客単位で設計されるべきです。
従来型 | 顧客起点型 |
|---|---|
部署別のKPI(IS・FS・CS) | 顧客行動を起点としたKPI |
内部プロセス中心 | 購買体験中心 |
定量的な数値のみ | 行動×感情の可視化 |
顧客がどの資料を見たのか、どのタイミングで動画を視聴したのか、何に反応し、何に迷っているのか——こうした購買行動データをもとに、KPIを"顧客との対話"の指標に変えていく。それが、データドリブン営業の次のステージです。買い手の実態はBtoB購買の実態調査2026にまとめています。
KPI設計チェックリスト
あなたのチームのKPIは、次の5つの問いに答えられますか?
ISとFSのKPIが「同じ方向」を向いているか?
KPIが"数"だけでなく"質"を測っているか?
顧客理解を評価指標に含めているか?
ISが創出した商談の「その後(受注)」まで追えているか?
顧客の行動データが部門をまたいで共有されているか?
どれか一つでも「いいえ」なら、再設計の余地があります。KPIは数字ではなく、チームが何を大切にするかの表明だからです。
まとめ|KPIはチームを評価するものではなく、つなぐもの
KPIを変えることは、チームの文化を変えること。「商談数」から「商談の質」へ——このシフトが、分業体制に"共通の目的"をもたらします。
ISとFSのKPI分断は、分業ではなく「KPI設計の断絶」が原因
「良い商談=顧客理解の深さ」を定義し、評価軸を揃える
共通KPI「SQL→受注率」で、バトンの受け渡しをリレーの完走に変える
顧客行動データを共有し、KPIを"対立軸"から"共通言語"へ
KPIは顧客単位で設計する時代へ
数を追う時代は終わり、これからは顧客理解を追う営業組織へ。ISとFSが共通KPIのもとで動くことで、数字ではなく信頼が積み上がっていきます。あなたの営業組織にとっての「良い商談」とは何か。そこから、KPI設計を見直してみてください。商談の質を可視化し、顧客理解を軸に営業をアップデートしたい方は、デジタルセールスルーム『コレタ for Sales』もご検討ください。→ コレタ for Sales の詳細はこちら
よくある質問(FAQ)
Q1. インサイドセールスとフィールドセールスのKPIはなぜズレるのですか? A. ISのKPIが「架電数・商談設定数」といった活動量、FSのKPIが「受注率・売上」といった成果に分かれているためです。ゴールが異なる方向を指すため、ISは数の獲得が目的化し、FSは質の低いリードに不満を持つ、という対立が生まれます。原因は分業ではなくKPI設計の断絶です。
Q2. ISとFSをつなぐ共通KPIは何を設定すればいいですか? A. 代表的なのは「SQL(質の高い商談)→受注率」です。ISとFSの両方に、創出した商談が最終的に受注したかを見る共通KPIを持たせることで、「バトンの受け渡し」ではなく「リレーの完走」として成果を捉えられます。両者が同じ顧客・同じゴールを見る状態を作ることが目的です。
Q3. THE MODEL(ザ・モデル)型の分業でよくある失敗は何ですか? A. 各部署が自分のKPIだけを最適化し、全体が沈む「部分最適の罠」です。ISが商談数を追って質の低い商談を量産し、FSが受注率を守るために案件を選別する、といった具合に、部署ごとの数字は達成されても売上が伸びない状態に陥ります。共通KPIと情報連携で防げます。
Q4. ISとFSの引き渡し基準(SLA)はどう作ればいいですか? A. 「どの状態の商談をFSに渡すか」を、活動量ではなく顧客理解の深さで定義するのがポイントです。たとえば「決裁者が資料を閲覧している」「課題が明確に言語化されている」といった、買い手の行動や状態を基準にします。件数だけのSLAは形骸化しやすいため、質の条件を含めることが重要です。
Q5. なぜ商談数は増えているのに売上が伸びないのですか? A. 商談の「数」だけをKPIにしているためです。質の低い商談が増えても受注にはつながらず、FSの工数を消費するだけです。商談化率や有効商談率といった質の指標、そして「SQL→受注率」という共通KPIを導入し、数から質へ評価軸を移すことで解消できます。
Q6. 顧客行動データはISとFSの連携にどう役立ちますか? A. 「顧客がどの資料を何回見たか」「動画のどこで離脱したか」といった行動データをISとFSが共有すると、顧客の温度感を共通認識にできます。ISが得た顧客理解をFSに引き継げるため、FSは初回商談で同じ説明を繰り返さずに済み、買い手の「すでに知っている内容」という不満(63.3%)も解消できます。
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